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最高裁判所第一小法廷 昭和37年(あ)1539号 判決

主文

原判決を破棄する。

本件を名古屋高等裁判所に差し戻す。

理由

弁護人野村均一、同大和田安春の上告趣意第一点は、単なる法令違反の主張であり、同第二点は、違憲(三一条、三九条違反)をいうが、実質は単なる法令違反の主張であつて、いずれも上告適法の理由に当らない。

しかし、職権をもつて調査するに、昭和三五年法律第一四〇号による改正前の火薬類取締法(以下単に法と略称する)の施行当時において、電気工事会社が電気器具取付の右会社の事業につき、建設用鋲打銃を使用して火薬類である空包を消費するに際し、危険予防の方法として特定の者をその取扱者と定め、その他の者には取扱わせないことを条件として許可を受けた場合において、その特定の取扱者以外の右会社従業員が会社の業務として右空包を消費した所為については、その行為者に対しては、法四八条一項、二五条一項、六〇条六号、六二条および昭和三五年法律第一四〇号による改正後の火薬類取締法附則六項の規定により、消費許可の条件違反としてこれを処罰すべきものであつて、無許可消費として法五九条五号、二五条一項、六二条により処罰すべきでないと解するを相当とする。けだし、法四八条一項、二五条一項、六〇条六号の規定による消費許可の条件違反の罪は、消費許可を受けた者について成立するものであるが、許可を受けた者が法人である場合、その法人の業務に関する従業員の右違反行為については、法六二条が法人その他の業務主体との両罰規定として「行為者を罰する外、その法人又は人に対して各本条の罰金刑を科する」旨規定していることに鑑み、その従業員に対しても右罰則を適用し得ることは明らかであるからである(昭和二八年(あ)第五一三三号同三〇年一〇月一八日最高裁判所第三小法廷決定刑集九巻一一号二二五三頁、昭和二六年(れ)第一三三号同二七年三月一八日第三小法廷判決刑集六巻三号四八七頁参照)。

本件火薬類取締法違反の事実として原審の確定するところによれば、被告人は原判示の中央電気工事株式会社に電気工として雇われ中、右会社が原判示の興和化学株式会社内において電気器具取付のため鋲打用空包二百個を消費する許可を愛知県知事から受くるに際し、危険予防の方法として右火薬類である空包消費の取扱者を田中正行、稲垣征市と定め、同人ら以外には絶対にこれを取扱わせ又は使用させない条件が付されていたのにかかわらず、昭和三五年四月五日右興和化学株式会社において右雇主である中央電気株式会社の電気工事施行のため、右田中、稲垣の不在中独断で原判示鋲打銃を使用して空包を爆発させたというのである。しからば右被告人の所為が法六〇条六号の条件違反の罪を構成することは、前説示のとおり明らかである。

しかるに、原判決は、火薬類取締法施行規則(昭和三五年通商産業省令一二四号による改正前のもの、以下規則と略称する)四八条三項の規定を引用し、火薬類取扱者に指定されていない被告人において、本件空包を爆発させたことは、火薬類消費の許可を受けた前記会社に対する関係で、右会社の提出した許可申請書の記載事項中、同条項にいわゆる「危険予防の方法」につき変更を来した場合にあたるとして、右規則の解釈上、かかる場合、被告人の所為は、法五九条五号の無許可消費の罪を構成する旨判示する。

右規則四八条三項は、法二五条一項の規定による「火薬類の消費の許可を受けた者は、その許可申請書の記載事項(目的、場所、日時および危険予防の方法を除く)に変更があつたときは、遅滞なくその旨を都道府県知事に届け出なければならない」と規定しており、右規定は、許可申請書の記載事項中例えば申請人の住所、職業の如き附随的事項が変更になつた場合は、その旨を遅滞なく届け出れば足りるが、右記載事項中、消費の目的、場所、日時および危険予防の方法の如く許可の核心をなす事項が変更になつた場合には、従前の許可の効力は、もはや右変更後の消費に及ぶことはなく、従つて、改めて申請書を提出して許可を受けなければならないとの趣旨をあらわしたものと解され、この点に関する原審の判断も右と同旨に帰する。しかしながら、本件の場合、原審の認定するところによれば、被告人は前示のとおり、会社の許可申請に当り危険予防の方法として定められた火薬類取扱者田中、稲垣両名の不在中、独断で本件空包を消費したというのであつて、右の事実関係からは、許可条件違反となるのは格別いまだ規則四八条三項にいう「危険予防の方法」に変更を来したものということはできない。原審がこれと異なる見解に立脚して、被告人の前示所為が無許可消費罪を構成すると判断したのは、法と規則の解釈適用を誤つたものというべく、その違法は判決に影響を及ぼし、これを破棄しなければ著しく正義に反するものと認められる。そして、右所為は、第一審判示の業務上過失致死の行為と併合罪の関係あるものとして単一の刑をもつて処断されたものであるから、結局、原判決は、全部破棄を免れない。

よつて、刑訴法四一一条一号、四一三条本文により、裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。(長部謹吾 入江俊郎)(裁判官斎藤朔郎は死亡につき署名押印することができない)

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